大規模修繕工事の費用は年々上昇しています。
マンションの資産価値の維持・向上に欠かせない大規模修繕工事。この費用は、建物の規模や劣化状況、工事内容などによっても違ってきます。 国土交通省が令和3年7~10月に実施した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、1回目の大規模修繕工事(築年数15年以下の物件)の場合で、1戸当たりの工事金額は100万~125万円前後で平均150万円とされます。住戸数50戸なら5,000万円、100戸なら1億5,000万円がおおまかな目安となります。 床面積1㎡当たりの工事金額は1回目の大規模修繕工事で1万円~1万5,000円前後、平均で約1万3,000円。しかし、年々建築に関する費用は右肩上がりに上昇している現表があります。特にこの10年では、すべての建築工法で上昇しており、 建築費用の高騰は東日本大震災後の復興工事から続いている 2011年、東日本大震災後の復興工事需要の高まりで工事費が上昇し、その後、東京五輪・パラリンピック開催決定を受けて、オリパラ関連施設の建設で工事が増え、それに伴い人件費が高騰、生コン、セメント、木材、鋼材等原価の上昇と相まって建築費も高騰しました。そのため2013年以降は右肩上がりで上昇し、ʼ19年にはこうした特需も落ち着きを見せ、ʼ20年に入ってからは、工事費上昇は横ばいからやや上昇で留まっていましたが、ここに新型コロナによる需給バランスの乱れ、そして働き方改革による工期延長も加わる状況になりました。 近年、木造マンションが注目されてきていますが、この木造まで大幅に高騰してきています。大規模修繕は新築工事とは異なりますが、鋼材等の資材と人件費の高騰の影響は変わりません。むしろオリパラの建設特需がおさまるまで大規模修繕をあとまわしにしていた管理組合も多く、総合的に勘案すると1戸当たり150万円近いというのが現状です。 そうすると、3,000万円でできたはずの工事が4,500万円かかり、管理組合としてはコツコツ貯めていたはずなのに、大規模修繕をしたくてもお金が足りないという状況に陥っています。
「修繕積立金」金額の設定根拠は?
経年とともに給排水管、エレベーター、機械式駐車場などの大がかりな工事が増加する一方、2回目・3回目の大規模修繕に向けた適切な長期修繕計画の見直しが行われていない事例も多いです。 大規模修繕は多額の費用がかかるため、多くのマンションでは向こう20~30年の長期的な修繕計画や資金計画を立てます。いつ、どの部分を修繕や改修をするのか、そのためには、どのくらいの費用がかかるのか。その費用を各区分所有者がどのように負担し合うのか、この計画を「長期修繕計画」といいます。毎月の修繕積立金の設定根拠は長期修繕計画です。 なお、2021年9月改訂の長期修繕計画作成ガイドラインでは、「大規模修繕工事2回を含む30年以上」とされます。この計画に基づきコツコツと「修繕積立金」を積み立てて、適切な時期に適切な修繕や改修を行うことが望ましいといえますが、長期修繕計画はあくまで、長期的な工事内容と実施時期、必要な工事費用の目安を見積もるもので、必ず計画通りに修繕を行わなければならないというわけではありません。実際に修繕や改修を行う場合は、劣化診断を実施し、具体的な修繕実施計画を作成し実施する必要があります。 ここで問題なのは、築古のマンションでは、そもそも長期修繕計画がない、あっても見直しされていないことがあることです。マンション総合調査によると、計画の見直しを行っていないマンションの割合は5.7%、見直しをしていても「修繕工事実施直前に見直しを行っている」が12.5%、「修繕工事実施直後に見直しを行っている」が10.1%と、22.6%ものマンションが10年以上見直されていません。これでは資金の余剰がない限り、最近10年の高騰に堪えられない可能性があります。 実際、同調査によると、積立額が計画に比べて不足しているマンションは34.8%もあり、このうち、不足する割合が20%を超えるマンションは15.5%にもなっています。もし長期修繕計画がないにもかかわらず、修繕積立金が徴収されている場合は、設定されている(毎月支払っている)金額に根拠がない可能性が高いです。そうすると、資金難により必要な時期に、必要な大規模修繕ができない可能性が高くなります。 そのため、行き当たりばったりで修繕をしたり、修繕積立金の大幅な値上げや一時金の徴収、それでも補填できなければ、管理組合で借り入れたりといった事態になります。そうなっては資産価値の下落にも繋がります。
こうした対策を住人だけで行うことは困難な場合もありますので、弊社ではマンション管理士を御紹介して、長期計画の作成のお手伝いをしています。